してあツりやせんぞ。」と、おれが言ひかけると、叔父《おんつあ》は「いやいや、今度こそおれは死ぬのだぞよ、したがおれが死んだつても、誰も何も心配したり嘆いたりする事はないぞよ。年を取つた者が、命數が盡きて若い者達の先に死んで行くのは、これはあたり前な事で、ものゝ順當といふものだからな……おれはお前の一方ならぬ働で、だんだんお前の家が繁昌して行くのを、死んでからも草葉の蔭から喜んで見てゐるぞ!……この町の中でも、綿屋といふ屋號の家は、お前の家とおれの家とこの二軒だけで、昔は近しい親類でもあつた間柄なのだから、おれが死んでも兩家は仲善くして、正兵衞と二人でお互に援け援けられ、なあ、心を合せて家業に精を出してくれろよ……頼むぞよ……」……お、叔父《おんつあ》はかう言つたんだあ!……』
彼は突然言葉を切つて、お、お、お! と咽び入つた。『叔父《おんつあ》は、お、おれに足を擦らせながらさう言つたんだ――いや、それを言ふ爲に、わざとおれに足を擦らせたんだ……「おれは死、ぬ、ぞ、よ、後を宜しく、た、の、むぞ、よ!」……』
彼はどうにかしてその時の嚴肅な氣分を現さうと苦心するかのやうに、一語一語に力
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