つあ》だつた……さう言つては何だけれど、おれは全く感心してるんだ、なえ……おれは忘れね、どうしても忘れね、一生涯おれは忘れる事が出來ね……叔父《おんつあ》が亡くなるその前の晩だつた、心配になるので店の用をそこそこにして來て見るとみんなが叔父《おんつあ》の座敷に集つてゐた。叔父《おんつあ》は注射してから暫く眠つてるやうだつて事だつたので、おれはその晩はお伽をするつもりだつたから、炬燵の方に行つて少し横になつてゐた……一時間ばかりすると叔父《おんつあ》は眼を覺した風で、「山太(屋號)で來てゐつかえ?」「は、來て居ツりやす。」おれは急いで叔父《おんつあ》の枕許に寄つて行つた。「どうでごす? ちつとは樂になりやしたか?」「あゝ、ちつと樂にはなつたやうだげつと、少しばかり脚の方を擦つてくれろ。」そこでおれは叔父《おんつあ》の脚の方に廻つて、靜に足を撫でて上げた。
「これでようごすか、もちつとそつとやツりやすか?」つて聞くと、「あゝそれでいゝともえ。」と、叔父《おんつあ》は言つた。「なえ幸さ、いろいろ世話になつたが、おれは今度は駄目なんだから、おれが死んだらばな……」「叔父《おんつあ》そんな事は決
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