もかくも立派に……まあ出來るだけはだが……とにかく綿屋の暖簾の下から、親父《おやぢ》が外してしまつて、息子が裸一貫で掛けたその暖簾の下から葬式を出してやつたんだ……これで親父も冥土に行つて先祖達に顏向も出來るつてわけだと俺は思ふんだが、どうだんべなえ本家……そこでだ、おれが今かうして、「まだまだ。」「今に見ろ、今に見ろ。」を一所懸命に繰り返してゐるのを知つたら、草葉の蔭から親父が見て、生きてた時の埋め合せにつて、佛の力でおれを援けてくれんべとおれはさう思つてたんが、どうだんべなえ本家、そこでおれは毎朝神棚の次に佛壇を拜む時には、「南無阿彌陀佛、お父さ、どうかこの家を守つておくれ、家内息災で、商法が繁昌するやうに[#「するやうに」は底本では「すやるうに」]、ようく守つておくれよ。」……おれはかう言つて拜むんだ、なえ……』
 彼は話しながら、實際合掌して、數珠を揉む時のやうに掌を摺り合した。
 と、このとき不思議な印象がぱつと彼の心に映つて、彼の注意の全部は、一齋にその方向にむかつて突進して行つた。お園が、何かあらたに出來た煮物のお初を盛つて、佛壇に晝の食事を供へてゐた。かあんと尾を引いた
前へ 次へ
全28ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング