は決してこんな事を自慢するのではあツりやせんぞ! 決して自慢するのではない、たゞおれに取つては嬉しい事だからさういふのだ。なえ、そらあしてやりたい事はどれ程あつたか知れない、また今だつて、生き殘つてゐるお母に、思ふ百分の一もしてやられないのは殘念だ、けれどもまだまだ[#「まだまだ」は底本では「まだだま」]、まだまだこれからなんだ……「今に見ろ、今に見ろ。」……』
 彼はいかにも、この今に見ろといふ言葉の心を具體化するやうに、急に調子を低めて、恰もむくむくと何かゞ首を擡げようとしてゐるかのやうに、重々しく、そして徐に言葉尻の調子を揚げるのであつた。
『おれは自分に言ふんだ、「まだまだ、まだまだ!」……それから、「今に見ろ、今に見ろ!」……』
 彼は首を振つたり、又は首を縮めて眉を聳てたりした。彼の言葉はひどく途絶えがちになつた。けれどもその間に却つて彼の實感が迸つた。
『おれは親父《おやぢ》に思ふだけの事は出來なかつたけれども、しかし親父はおれに不足を言ふ事は出來まいとおれは思ふんだが、どうだんべなえ本家……おれは思ふんだ……親父はおれを生《な》したつきり何もしてくれなかつたが、おれはと
前へ 次へ
全28ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング