勢屋の御祝儀はいつ?』
『二月の朔日だつて。』
『あのぼんちやん、いよいよお婿さんになるのかなあ。』
お芳も友達も、そのぼんちやんといふ綽名を言つて笑ひこけた。
『何縫つてるの?』と、お芳は歸らうとする友達の風呂敷の端をめくつた。
『まあいゝ柄、誰の、あんたの?』
友達は嬉しさうに笑つて、ぽつくり頭を下げた。
『もうお正月、併し今年は歌留多も取れない。』
お芳は寂しさうに笑つて送り出した。
その晩お芳は、東京の醫學校へ行つてゐる中の姉のところへと思つて小包を纏めた。先達て小紋の着物がほしいと言つて來たので、安物の絹に形を置かせたのが今日出來上つて來たのである。
あり合せた羊羹や氷餅のやうなものもつめようとしたので、荷の形がどうしてもうまく行かなかつた。少しくぢれて來たところへ、母親が一寸口を出したのが氣に觸つて、お芳は、
『えゝつ。』と、赤い顏をしてそれをめちめちやに[#「めちめちやに」はママ]した。
『おゝおゝ親にたてつけ、わがまゝな! 何がそんなに氣に入らないのか知れないが、君は君でこちらの騷を知らずに待つてるからと思つて早く送れと言つたまでだのに……病氣だと知つたら試驗
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