出した友達を無理に引きあげた。
『この頃は誰と誰いつてるの? お高ちやんは?』
『お高ちやんはこの頃休んでるの、みんな歳暮《くれ》で忙しいもんだから……私も今日きり、お秀さんは風邪ひいたつて、この頃ちつとも來なかつたわ。』
『さう。』
 お芳は、みんながうつむいたりのびたり、時には顏を見合して大わらひしたりする人達の丸く座をとつた有樣を、しばらくやすんで見ればなつかしいとも思はれるのであつた。
『姉さんどうしたい、少しはいゝの?』
『少しはいゝやうなんだけれど、まだやつぱりない、熱が下らなくつて……』
『せはしがつぱい、一人だもの……まあこんなにめなしが切れて……』
と、火鉢に翳したお芳の手を握つて眉を顰めた。
『がさがさして自分の手のやうでないの……一寸ほら!』と、お芳は袖口から赤い襦袢の袖口の切れたのを引つぱり出して笑つた。
『お師匠樣がよろしくつて、お見舞に上らなくちやならないんだげつと、今少し仕事が支へてるからつて。あのない、そらあの伊勢屋の結納もの……そりやあ立派なの、仕度したら帶が一番はえたわ、出來上つたら行つて見なんしよ、黒の方さへ出來上ればそれで揃ふんだから……』
『伊
前へ 次へ
全29ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング