六
蜜柑、數の子、綿、氷豆腐、細い札のついた砂糖の袋や、尻尾を水引で結んだ鹽鮭などが、歳暮の贈物としてやりとりされるやうになつた。
病人は先達てから左腹部に出來た凝がまだとれなくて、熱もあまり高くはなくなつたが、同じやうな度で續いた。學士は試にそこに蛭をつけて見たいといふので、お芳はある日、町の裏の百姓家に蛭を買ひに行つた。
畑と畑の間のくぼみや、細い蔓の枯れて絡つた樹の株などに、斑と殘つた雪が少くなつた。鼠色の夕暮の光に、風はやはり頬につめたく、寂しい郊外を一二軒づつ低い藁家が點々してゐる。
爐の焔に赤かつた顏の老爺が、
『いくら高く出したつて獲れぬものあ仕方がねえ、冬はみんな豆つ粒のやうにまるまつてゝ、なかなか見付かるもんでねえだ。一疋一兩出すつたつて、なあ、獲れぬものは[#「獲れぬものは」は底本では「獲れねものは」]仕方がねえや。』と、動かなかつた。
×市の取引先に依頼して、そこから小包で屆けて貰つたが、その時にはさいはひ用がなくなつて、罎の中にたゞ黒い蟲が延びたり縮んだりした。
『まあ上つて、よ、よう。』と、お芳は友珍しさに、一寸お針のかへりから屆けものかたがた顏を
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