いに切れてゐた。
『まあ……』と、その友達は顏を見て、活溌で、無邪氣で、文章が上手で、先生達にかはいがられてゐたその人が……といふやうな顏をした。
 また清治といふ子は面白い子だつたので、毎日藥取に行く藥局の書生と仲善になつてゐた。時々遊び過ぎて遲くなつて來て宗三郎に叱られたり、さうかと思ふと皸や霜燒の藥などを貰つて來て、お芳にくれたりした。
『お芳ちやん、お芳ちやん、君島さんがこれよこしたぞい。』と、ある日清治は藥罎と一所に一通の手紙を渡した。
『君島さん?……』
『うん? 藥局の人、書生。』と、口早に言つていつた。
 披いて見て笑つてお芳は捨てた。歌のまねしたやうなものが二三首書いてあつて、例によつてお芳の文才を稱へてある。これに類した思はせぶりな手紙は、絶えず他方から來た。
 お芳の足の霜燒は頽れていたみに變つた。
『一人ではなかなか大變だから、民でも呼びよせて使つたらどうだい。』と、宗三郎の姉が來てよくさう言つた。
『ほんとにまあ、芳ちやんのよく働くこと……』
 加納屋のをばさんは來る度に感心する。この人には二番目の息子があつて、もう嫁を取る時分になつてゐる。

       
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