出した友達を無理に引きあげた。
『この頃は誰と誰いつてるの? お高ちやんは?』
『お高ちやんはこの頃休んでるの、みんな歳暮《くれ》で忙しいもんだから……私も今日きり、お秀さんは風邪ひいたつて、この頃ちつとも來なかつたわ。』
『さう。』
お芳は、みんながうつむいたりのびたり、時には顏を見合して大わらひしたりする人達の丸く座をとつた有樣を、しばらくやすんで見ればなつかしいとも思はれるのであつた。
『姉さんどうしたい、少しはいゝの?』
『少しはいゝやうなんだけれど、まだやつぱりない、熱が下らなくつて……』
『せはしがつぱい、一人だもの……まあこんなにめなしが切れて……』
と、火鉢に翳したお芳の手を握つて眉を顰めた。
『がさがさして自分の手のやうでないの……一寸ほら!』と、お芳は袖口から赤い襦袢の袖口の切れたのを引つぱり出して笑つた。
『お師匠樣がよろしくつて、お見舞に上らなくちやならないんだげつと、今少し仕事が支へてるからつて。あのない、そらあの伊勢屋の結納もの……そりやあ立派なの、仕度したら帶が一番はえたわ、出來上つたら行つて見なんしよ、黒の方さへ出來上ればそれで揃ふんだから……』
『伊勢屋の御祝儀はいつ?』
『二月の朔日だつて。』
『あのぼんちやん、いよいよお婿さんになるのかなあ。』
お芳も友達も、そのぼんちやんといふ綽名を言つて笑ひこけた。
『何縫つてるの?』と、お芳は歸らうとする友達の風呂敷の端をめくつた。
『まあいゝ柄、誰の、あんたの?』
友達は嬉しさうに笑つて、ぽつくり頭を下げた。
『もうお正月、併し今年は歌留多も取れない。』
お芳は寂しさうに笑つて送り出した。
その晩お芳は、東京の醫學校へ行つてゐる中の姉のところへと思つて小包を纏めた。先達て小紋の着物がほしいと言つて來たので、安物の絹に形を置かせたのが今日出來上つて來たのである。
あり合せた羊羹や氷餅のやうなものもつめようとしたので、荷の形がどうしてもうまく行かなかつた。少しくぢれて來たところへ、母親が一寸口を出したのが氣に觸つて、お芳は、
『えゝつ。』と、赤い顏をしてそれをめちめちやに[#「めちめちやに」はママ]した。
『おゝおゝ親にたてつけ、わがまゝな! 何がそんなに氣に入らないのか知れないが、君は君でこちらの騷を知らずに待つてるからと思つて早く送れと言つたまでだのに……病氣だと知つたら試驗
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