散歩
水野仙子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)行《ゆ》かないか。

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一寸|面伏《おもぶ》せな

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)歯※[#「齦」の「齒」に代えて「歯」、11−7]《はぐき》に

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)こと/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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「おい、散歩に行《ゆ》かないか。」と、縁側に立つて小さく口笛を吹いてゐた夫は言つた。
 薄暗い台所でしてゐた水の音や皿の音は一寸《ちょっと》の間やんで、「えゝ」と、勇みたつたやうな返事が聞えると、また前よりは忙しく水の音がしだした。
 暗い夜であつた。少しばかり強く風が渡ると、光りの薄い星が瞬きをして、黒いそこらの樹影《こかげ》が、次ぎから次ぎへと素早く囁《ささや》きを伝へて行く。便所《はばかり》の手拭ひ掛けがこと/\と、戸袋に当つて搖れるのがやむと、一頻《ひとしき》りひつそりと静かに
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