うに轉ばされてゐる赤兒を振り返つて、同情を求める樣に人々の顏を見廻した。
「實は何です。この子供の親父《おやぢ》は今|此地《ここ》にゐねえんです、東京さ稼ぎに行つてるんで、妹はこの子供を連れて、ひと月ばかり前に私を頼つて來たんです。今煙草工場さ働きに行つてやすがな、先刻《さつき》晝やすみに乳飮ませに連れてつて、歸つて來たばつかりなさうですから……」
「ほう、その時まで何でもなかつたんですね。」
「はあ、いつも私のお母《ふくろ》――この子供の祖母《ばば》ですな、それが守してるんすが、その今年八つになる私の娘が、おぶいたがつて泣くもんだから、ちよつくら背負《しよ》はせてやつたんだつていひやす。私もいきなり仕事場さ迎へに來られて、びつくりして飛んで歸つて、それからすぐにここさ連れて來たんでごすがな……なんでも唄なんてうたつて錢貰つて歩く女の後にくつついてゐたのを、隣のをばさんが見つけて知らしてくれたんだつていひやす、ぐたりとなつてゐたんですな、その時にやあ。」
「その時、脈があつたかどうか分らないんだね。」
「すぐにおろして氣付なんて飮ませた時にや、息ふつかへしたつていふんでごすが……」
「
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