はこの忙がしい世界を隔てて、さらに遠い世界をながめる望楼のように、見えない物をも見るかのごとく寂然《せきぜん》として立っている。またその骨や、その関節は、僕自身の拳《こぶし》のように生けるがごとくに見える。……さらにまた、鏡のうちにうつる戦闘用の斧《おの》を見ろ。それはあたかも甲冑《かっちゅう》をつけた何者かがその斧を手に持って、力強い腕で相手の兜《かぶと》を打ち割り、頭蓋骨や脳を打ち砕き、他の迷える幽霊とともに未知の世界を侵略しているようにも見える。もし出来るものならば、僕はあの鏡のうちの部屋に住みたい」
こんな囈語《うわこと》めいたことを言いながら、鏡のうちを見つめて起《た》ちあがるや、彼は異常の驚きに打たれた。鏡にうつっている部屋の扉《ドア》をあけて、音もなく、声もなく、全身に白い物をまとっている婦人の美しい姿があらわれたのである。婦人は憂わしげな、消ゆるがごとき足取りで、彼に背中をみせながら、しずかに部屋のはずれの寝台に行き、わびしげにそこへ腰をおろして、悩ましげな、悲しげな表情をその美しい眼に浮かべながら、無言の愛情をこめた顔をコスモの方へ振り向けた。
コスモはしばらく身
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