なかった。
「館《たて》!」
「はっ」
「ゆうべはかしこに何人おったか存じておるか」
「おりまする。たしかに両名の姿を見かけました」
「その前はどうであった」
「三人で厶《ござ》りました」
「夜ごとに目立って客足が減るよう喃《のう》。――歎かわしいことじゃ。考えねばならぬ。――参ろうぞ」
忍びやかに、そうして重たげな足どりだった。
牛込御門の前通りにやはり一軒屋台の灯が見える。
三つの影は同じように物蔭へ立ち止まって、遠くから客の容子《ようす》を窺った。
「どうじゃ。いるか」
「はっ。おりまするが――」
「何人じゃ」
「たったひとりで厶ります」
「僅かに喃。酒はどうか。用いておるか」
「おりませぬ。寒げにしょんぼりとして、うどんだけ食している容子に厶ります」
「やはりここも次第に寂《さび》れが見ゆるな。ひと月前あたりは、毎晩のように七八人もの客が混み合っていたようじゃ。のう。山村。そうであったな」
「はっ。御意に厶ります。年前は大分酒もはずんで歌なぞも唄うておりましたが、明けてからこちら、めっきり寂れがひどうなったように厶ります。ゆうべもやはりひとりきりで厶りました」
「そう喃。
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