二
警囲の従者はたった二人。
しかし、居捕《いど》りと小太刀の技に練り鍛えられた二人だった。
――危険な身であるのを知っているのに、こうした対馬守の微行は雨でない限り毎夜の例なのである。
赤坂御門を抜けると三つの影は、四ツを廻った冬の深夜の闇を縫《ぬ》って、風の冷たい濠《ほり》ばた沿いを四谷見附の方へ曲っていった。しかも探して歩いているものは、まさしく屋台店なのである。
「やはり今宵も同じところに出ておるぞ。気取《けど》られぬように致せよ」
見附前の通りに、夜なきそばと出ているわびしい灯り行灯《あんどん》を見つけると、三人の足は忍びやかに近づいていった。近づいて這入《はい》りでもするかと思われたのに、三人はそこの小蔭《こかげ》に佇《たたず》むと、遠くから客の在否を窺った。
しかし居ない。
刻限も丁度《ちょうど》頃《ころ》なら、場所も目抜の場所であるのに、客の姿はひとりも見えないのである。暫《しばら》く佇んで見守っていたが、屋台のあるじが夜寒《よさむ》の不景気を歎くように、悲しく細ぼそと夜啼《よな》きそばの叫び声を呼びつづけているばかりで、ついにひとりも客は這入ら
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