タと駈け違う足音が伝わった。と思われた刹那《せつな》――。
「お見のがし下されませ! お許しなされませ! 後生《ごしょう》で厶ります。お見のがし下されませ!」
必死に叫んだ声は女! ――まさしく女の声である。
対馬守の身体は、思わず御縁端《ごえんばた》から暗い庭先へ泳ぎ出した。
同時のようにそこへ引っ立てられて来た姿は、女ばかりだと思われたのに、若侍《わかざむらい》らしい者も一緒の二人だった。
「御、御座ります。ここに御灯りが厶ります」
「……※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
差し出した紙燭《ししょく》の光りでちらりとその二人を見眺めた対馬守の声は、おどろきと意外に躍《おど》って飛んだ。
「よっ。そち達は、その方共は、道弥とお登代じゃな!」
見られまいとして懸命に面を伏せていた二人は、まさしく侍女のお登代と、そうして誰よりも信任の厚かった近侍《きんじ》の道弥だったのである。
不義!
いや恋! ――この頃中《ごろじゅう》から、ちらりほらりと入れるともなく耳に入れている二人のその恋の噂を思い出して、若く美しい者同士の当然な成行に、対馬守の口辺《こうへん》には思わずもふいっ
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