《とっさ》に思い当った。刃をふりかぶって悪鬼のごとくに襲撃して来たそのいち人こそは、まさしく見覚えの堀織部正家臣三島三郎兵衛である。間《ま》をおかずに大喝が飛んでいった。
「うろたえ者めが。退りおろうぞっ。私怨の刃に討たれる首《こうべ》持っていぬわっ。退れっ。退れっ。退りおれっ」
叫んで、さっと身をすさったが、三島が必死の刃は、圧する凄気《せいき》と共に、対馬守の肩先に襲いかかった。しかしその一刹那である。弾丸のように黒い影が横合いから飛びつけると、間一髪のうちに三島三郎兵衛の兇刃を払ってのけて、技もあざやか! ダッと一閃のまにそこへ斬ってすてた。――頭巾姿の顔も誰か分らぬ救い手である。
黒いその影は、つづいて右に走ると、さらにいち人見事に刺客を斬ってすてた。そのまに館がひとり、山村がいち人、あとの四人を残りの近侍達が斬りすてて、広場の砂礫は凄惨《せいさん》として血の海だった。
対馬守は自若《じじゃく》として打ち見守ったままである。その目は、救い手の黒い姿に注がれて動かなかった。しかしやがて肯《うなず》いた。
「道弥よな」
呟《つぶや》いたとき、頭巾を払って救い手が砂礫に手をつ
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