》じなかったために、怒って幽閉したのを憤おって自刃したと言う憶測だった。もしも堀家恩顧の家臣が恨みを抱いているとするなら、その幽閉に対する逆恨みに違いないのである。
「馬鹿なっ。大義も通らぬ奸徒達にむざむざこの首《こうべ》渡してなるものかっ。やらねばならぬ者がまだ沢山あろうぞ。早う行けっ」
お駕籠は揺れらしい揺れも見せないで、しずしずと坂下門にさしかかっていった。供揃いはたった十人。一面の洗《あら》い砂礫《じゃり》を敷きつめたその坂下御門前に行きついたのは、冬の陽の冷たい朝まだきの五ツ前である。
と見えた刹那――、轟然《ごうぜん》として銃音《つつおと》が耳をつんざいた。一緒に羽ばたきのような足音が殺到したかと思われるや、突然叫んで言った。
「国賊安藤対馬、斬奸《ざんかん》じゃっ。覚悟せい!」
チャリンと言う刃音が同時に伝わった。
刺客だ!
七八名らしい剣気である。
「来おったな」
対馬守は、待ちうけていた者に会うような、ゆとりのある態度で、従容《しょうよう》と駕籠を降りた。――途端、目についたのは脱兎のごとくに迫って来る若侍の姿だった。それも十八九。
三島――対馬守は咄嗟
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