りの置土圭《おきどけい》が、静かな時の刻みをつづけていった。――勿論《もちろん》殿から拝領の品だった。追放の身にはなっても、せめてこればかりは御形見にと思って持って来たのである。
 恨んではならぬ!
 お護り申さねばならぬ!
「登代どの!」
 ほっと蘇《よみがえ》ったように面をあげると、道弥は不意にきいた。
「あすは十五日で厶ったな」
「あい。月次《つきなみ》お登城の日で厶ります」
 きくや矢庭《やにわ》に立ち上ると、敢然として言った。
「行って参る! 並々ならぬ身体じゃ。大切に致されよ」
「ま! 不意にどこへお越し遊ばすので厶ります。このような夜中、何しに参るので厶ります」
「せめてもお詫びのしるしに――、いや、道弥がせねばならぬことを致しに参るのじゃ。健固でお暮し召されよ……」
「ま! お待ちなされませ! お待ちなされませ!」
 しかし道弥の姿は、もう表の闇に消えていった。――同時のように、ジイジイと置土圭が四時《ななつ》を告げた。

 大書院の置土圭もまたその時四時だった。
 だが対馬守は、あれから今まで死像のようにじっと端座したままだった。――老職多井がそれを気遣って言った。

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