と言えば厳しすぎるお仕打ちだった。――道弥は、悲しげに面をあげて、じっとお登代の目を見守った。目から、そうして乳房を通って、道弥のふたつの眼《まなこ》は怪しくおののき輝き乍ら、乳房の下のほのかなふくらみにそそがれた。
 四月《よつき》! ――そこには四月の愛の結晶がすでにもう宿されているのである。
 これまでになっていることをお気づきだったら、ああまで強くお叱りにならなかったかも知れぬ。よしや一度はお叱りになったにしても、昔ほどの御豊な情味をお持ちになっていたら――だが、そのとき道弥の心に浮び上って来たものは、日夜の御心労におやつれ遊ばしている殿のいたいたしいお姿だった。
 あのお顔に刻まれている皺《しわ》の一つ一つの暗い影は、とりもなおさず国難の暗い影なのである。
 殿の一動は、江戸の運命を左右するのだ。
 そうしてまた殿の一挙は、国の運命をも左右するのだ。
 おいたわしいことである。心に一刻半刻のゆるみをも持つことの出来ない殿の日夜は、只々おいたわしい限りである。――いや、それゆえにこそ、自分等ごとき取るに足らぬものの恋なぞは、心にも止めていられないのだ。
 カチカチと、オランダ渡
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