と天下に声明せい」
 そう言って言明した以上は、激徒が必ずや機を狙っているに違いないのだ。――刺客としたら言うまでもなくそのいずれかが忍び入ったに相違ないのである。
 対馬守は端然として正座したまま、潔よい最期《さいご》を待つかのように、じいっと今一度闇になった書院の中の気配を窺った。
 だがやはり音はない。
「誰《た》そあるか」
 失望したような、ほっとなったような気持で対馬守は、短銃と一緒にオランダ公使が贈ったギヤマン玉の眼鏡をかけ直すと、静かに呼んで言った。
「道弥《みちや》はおらぬか。灯りが消えたぞ」
「はっ。只今持参致しまするところで厶《ござ》ります」
 応じて時を移さずに新らしい短檠《たんけい》を捧げ持ち乍ら、いんぎんにそこへ姿を見せたのは、お気に入りの近侍《きんじ》道弥ならで、茶坊主の大無《たいむ》である。
「あれは、道弥はおらぬと見えるな。もう何刻頃であろう喃《のう》?」
「只今四ツを打ちまして厶ります」
「もうそのような夜更《よふ》けか。不思議な消え方を致しおった。よく調べてみい」
「……?」
「首をひねっておるが、何としてじゃ」
「ちといぶかしゅう厶ります。油も糸芯
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