ります。薩州浪士取締り早瀬助三郎組下の五名に厶ります」
「早瀬が組下とあらば腕利きの者共よな。夜中《やちゅう》役目御苦労じゃ。充分に警備致せよ」
「御念までも厶りませぬ。御老中様もお気をつけ遊ばしますよう――」
 人形のように固くなって、勤王浪土取締りの隊士達が見送っているのを、対馬守の足どりは実に静かだった。聖堂裏から昌平橋を渡って、筋違《すじかい》御門を抜けた土手沿いに、求める屋台の灯がまた六つ見えた。闇に咲く淫靡《いんび》な女達が、不思議な繁昌を見せているあの柳原土手である、それゆえにこそ、くぐり屋台の六つ七つは当り前だった。
 しかし客足は反対にここも寂れに寂れて、六軒に僅か三名きりである。
 対馬守は沈痛にもう押し黙ったままだった。――これ以上検分する必要はない。盛り場の柳原にしてこれだったら、他は推《お》して知るべしなのだ。目撃したとていたずらに心が沈むばかりである。
 足を早めて屋敷に帰りついたのは、八ツをすぎた深夜だった。
 寝もやらず待ちうけていた老職多井格之進が、逸早《いちはや》く気配を知って、寒げに老いた姿を見せ乍ら手をつくと、愁い顔の主君をじいっと仰ぎ見守り乍ら
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