、丹田《たんでん》に力の潜んだ声で言った。
「さぞかし御疲れに厶りましょう。御無事の御帰館、何よりに御座ります。今宵の容子は?」
「ききたいか」
「殿の御心労は手前の心労、ききとうのうて何と致しましょうぞ。どのような模様で厶ります」
「言いようはない。火の消えたような寂れ方じゃ」
「ではやはり――」
「そうぞ。もはや迷うてはおられまい。断乎として決断を急ぐばかりじゃ」
「…………」
「不服か。黙っているのは不服じゃと申すか」
「いえ不服では厶りませぬ。殿が御深慮を持ちまして、それ以外に途《みち》はないと仰せられますならば、いかような御決断遊ばしましょうと、格之進何の不服も厶りませぬが――」
「不服はないがどうしたと申すのじゃ」
「手前愚考致しまするに屋台店の夜毎に寂れますのは、必ずしも町民共の懐中衰微の徴《しる》しとばかりは思われませぬ。一つは志士召捕り、浪土取締りなぞと血腥《ちなまぐ》さい殺傷沙汰《さっしょうざた》がつづきますゆえ、それを脅《おび》えての事かとも思われますので厶ります」
「一理ある。だがそちも常人よ喃。今の言葉は誰しも申すことじゃ。予は左様に思いとうない。も少し世の底
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