るには第一に果断、第二にも果断、終始果断を以て貫きたいものじゃ。命は惜しみたくないものよ喃」
「…………」
「泣いておるな。泣くにはまだ早かろうぞ。それにつけても大老は、井伊殿は、立派な御最期だった。よかれあしかれ国策をひっ提《さげ》て、政道の一線に立つものはああいう最期を遂げたいものじゃ。羨《うら》やましい事よ喃」
「申、申しようも厶りませぬ……」
「泣くでない。そち程の男が何のことぞ。――天の川が澄んでおるな。風も冷とうなった。少し急ぐか」
足を早めてお茶の水の土手にさしかかろうとしたとき、突如バラバラと三つ四つ、黒い影が殺到して来たかと見えるや、行手をさえ切ってきびしく言った。
「まてっ。何者じゃっ」
「まてとは何のことじゃ!高貴のお方で厶るぞ。控えさっしゃい!」
叱って、館、山村の従者両名がさっと身楯《みだて》になって身構えたのを、
「騒ぐでない」
しいんと身の引きしまるような対馬守の声だった。
「姿の容子、浪士取締り見廻り隊の者共であろうな」
「……?」
「のう、そうであろうな。予は安藤じゃ。対馬じゃ」
「あっ。左様で厶りましたか! それとも存ぜず不調法恐れ入りまして厶
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