「な、な、なんです! どうしたんです!」
 おどろき怪しんでふり向いたふたりの顔へ、けわしい目が飛んでいった。
「たわけたちめがっ。おれをどうする! 見せつけるのかっ。羨《うら》やましがらせをするのかっ。それへ出い!」
「ば、ば、馬鹿なっ。目の前で、枕元で芸者買いせい、と言うたじゃごわせんか! お言いつけ通りにしたのが、なぜわるいんです!」
「ぬかすなっ。それにしたとて程があるわい! ずらりと並べっ」
「き、き、斬るんですか! 同志を、仲間を、苦労を分けた手下を斬るんですか!」
「同志もへちまもあるかっ。腹が立てば誰とて斬るんじゃっ。憎ければどやつとて斬るんじゃっ――一緒に行けいっ。たわけたちめがっ」
 さっと横へ、青い光りが伸びたかと思うと一緒に、ざあっと、小次郎たちふたりの背から血がふきあがった。
 その血刀《ちがたな》をさげたまま、直人は、そぼふる雨の表へ、ふらふらと出ていった。待ちうけるようにして、バラバラと影がとびかかった。
「神代直人! 縛《ばく》につけいっ」
 しかし、直人は、もう逃げなかった。心底《しんてい》腹を立てて斬ったよろこびを楽しむように、死の待っているその黒い
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