こら女! なにか唄え」
「…………」
「唄わんな。ではジャカジャカジャンジャンとなにか弾《ひ》け」
「…………」
「よう。素的々々、音がきこえ出したぞ。――さあさ、浮いた、浮いた、ジャカジャカジャンじゃ。代りに呑んで、代りに騒いで、殿様、芸者を買うたようなこころもちになろうというんだからのう。おまえらもその気で、もっとジャカジャカやらんといかん! ――そうそう。そこそこ、てけれつてってじゃ。
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ここは名古屋の真中で。
ないものづくしを言うたなら。
隊長、病気で女がない。
金丸、ろれつが廻らない。
てけれつてっての、てってって」
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興《きょう》至って、そろそろとはめがはずれ出したのである。
「どうです。隊長! 金丸、いかい酩酊《めいてい》いたしました。踊りますぞ」
ふらふらと金丸が、突然立ちあがったかと思うと、あちらへひょろひょろ、こちらへひょろひょろとよろめいて、踊りとも剣舞ともつかぬ怪しい舞いを初めた。
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「ヒュウヒュウ、ピイピイピイ。
当節流行の暗殺節じゃ。
ころも、腕《わん》に至り、毛脛《けずね》が濡《ぬ
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