らん。逃げられるものなら一刻も早く逃げ出した方が賢いんじゃ、手分けして探ろう。おれは大村の宿の容子と、市中の模様を嗅いで来る。おぬしは、西口、東口、南口、街道筋の固めの工合を探って来い」
「よし来た。出かけよう! ――いいですか。隊長。おまえらつもりたいようにつもれと仰有いましたから、容子を探ったうえで然《しか》るべく計らって参ります。あとでかれこれ駄々をこねちゃいけませんぞ」
言いすてて、ふたりは、不敵にもまだ日が高いというのに危険を犯《おか》し乍ら市中へ出ていった。
しかし、直人は、うんともすうとも言わなかった。まるで馬鹿になる修業をしてでもいるように、じっと一点を見つめたまま、寝返りも打たなかった。
知らぬまに、高かったその陽がおちたとみえて、うっすらと夕ぐれが這《は》い寄った。――同時のように、ひたひたと足音が近づいた。
小次郎がかえって来たのである。
のぞきこむようにして、その小次郎が手柄顔に言った。
「大丈夫だ、先生。大村は死にますぞ」
「これから死ぬというのか、もう死にかけているというのか」
「急所ははずれたが、思いのほかに傷が深いから、十中八九死ぬだろうという
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