。泊り合わせたその宿の若い内儀が夕方近くから俄《にわ》かに行方知《ゆきかたし》れずになったとやらで、それがよくよく人相など聞いて見ますると、崖ぶちから身を投げたあの女にそっくりそのままで厶りましたのでな、それならばしかじか斯々《かくかく》じゃと言う出家の話から騒ぎが大きくなってすぐに人が飛ぶ、谷底から死骸《むくろ》が運ばれて来る。しらべて見るとやはり宿の内儀だったので厶ります。それゆえせめても救うことの出来なかった詫び心にあとの菩提《ぼだい》でも弔《とむら》いましょうと、身投げした仔細を尋《たず》ねましたところ、亭主が申すには何一つ思い当る事がないと言うのじゃそうで厶ります。ない筈はあるまい。何ぞあるであろうと根掘り葉掘りきき尋ねましたところ、やはり変なことがあったので厶りまする。身投げした十日程前に古着屋から縮緬《ちりめん》の夜具を一組買ったそうで厶りましてな、それを着て寝るようになってから、どうしたことか毎夜毎夜内儀が気味わるく魘《うな》されるばかりか、時折狂気したようにいろいろとわけのわからぬことを口走っては騒ぎ出すようになったと言うので厶ります。――それじゃ。屹度《きっと》それ
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