に泊ればよいものを夜旅も修業の一つと心得ましたものか、とぼとぼと雪に降られてこの二本松目ざし乍らやって参りますると、お城下へもうひと息という阿武隈《あぶくま》川の岸近くで左右二つに道の岐《わか》れるところが厶りまするな、あの崖際《がけぎわ》へさしかかって何心なく道を曲ろうと致しましたところ、ちらりと目の前を走り通っていった若い女があったそうに厶ります。ぎょっと致しましたが、そこはやはり旅馴れた出家で厶りますゆえ、雪あかりにすかしてよくよく女を見直すと、これがどうで厶りましょう。パラリと垂れたおどろ髪の下から、ゲタゲタと笑いましてな、履物《はきもの》も履きませず、脛《はぎ》もあらわに崖ぷちへ佇《たたず》み乍ら、じいっと谷底を覗いていたかと思うと止めるひまも声を掛けるひまもないうちに、ひらりと飛込んで了ったと言うので厶りまするよ。それからが大変、なにしろ身は出家で厶りまするからな。人ひとり救うことが出来ぬようではと、お城下で宿を取ってからもそのことばかり気に病んでおりましたところ、急に何やら町内の者がそわそわと宿の内外で騒ぎ出しましたゆえ、それとなく探ってみると、因縁《いんねん》で厶ります
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