か知らぬが、その者はどうしたぞ?語ったために何ぞ崇りがあったか」
「いえ厶りませぬ」
「それみい! 話し手も息災、きいたそち達も今まで斯様《かよう》に無事と致さば何の怖《おそ》れることがあるものか! 長国、十万石を賭けても是非に聞きとうなった。いや主命を以て申し付くる! その怪談話してみい!」
「はっ。君命とありますれば申しまするで厶ります。話と言うは――」
「よさぬか! 門七! 知らぬぞ! 知らぬぞ! 崇りがあっても俺は知らぬぞ」
「構わぬ! 崇りがあらば俺が引きうけるわ。何やら急に話して見とうなった。ハハハ……。殿! 物凄い話で厶りまするぞ。とくと、おきき遊ばしませ」
物《もの》の怪《け》に憑《つ》かれでもしたかのごとくふるえ声で叫んだ千之介の制止を、同じ物の怪に憑かれでもしたように林田が跳ね返し乍らつづけていった。
「話と言うはこうで厶ります。ついこの冬の末にそれもこの二本松のお城下にあった話じゃそうに厶りまするが、怪談に逢《お》うたは旅の憎じゃとか申すことで厶りました。多分修行|半《なか》ばの雲水《うんすい》ででも厶りましたろう。雪の深い夕暮どきだったそうで厶ります。松川の宿
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