う林田。仔細ありげじゃ。聞かねばおかぬぞ。何が一体どうしたというのじゃ」
「いえ、実は、あの――」
「言うなと申すに! なぜ言うかっ」
 別人のように千之介がけわしく制したのを、
「控えい! 波野!」
 長国がきびしく叱って言った。
「気味の悪い奴よのう! その方は今宵いぶかしいことばかり致しおる。尋ねているのはそちでない。門七じゃ。林田! 主《しゅ》の命じゃ! 言うてみい!」
「はっ。主命との御諚《ごじょう》で厶《ござ》りますれば致し方厶りませぬ。千之介がけわしく叱ったのも無理からぬこと、実は波野と二人してこの怪談を先達《せんだつ》てある者から聞いたので厶ります。その折、語り手が申しますのに、これから先うっかりとこの怪談を人に語らば、話し手に禍《わざわ》いがかかるか、聞き手の身に禍いが起るか、いずれにしても必ずともに何ぞ怪しい祟《たた》りがあるゆえ気をつけいと、気味のわるい念を押しましたゆえ。千之がそれを怖《おそ》れてやめろと申したので厶ります」
「わははは。何を言うぞ。そち達両名は二本松十万石でも名うての血気者達じゃ。そのような根も葉もないこと怖《こわ》がって何とするか、語ったは誰
前へ 次へ
全32ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング