それと一緒にバタリと表の雨の中で何やら倒れた音が厶りましたゆえ、さすが気丈の赤堀先生もぎょっとなりまして怕々《こわごわ》すかして見ましたところ、子按摩はやはりいたので厶りました。見事な居合斬りに逆袈裟《ぎゃくげさ》の一刀をうけ、息もたえだえに倒れておったと言うので厶ります」
「ふうむ。なるほどな」
 唸《うな》るようにほっと息を吐き乍ら面をあげると、長国がしみじみ言った。
「気味のわるい話じゃ。やはり子按摩は親の讐討《かたきう》ちに来たのじゃな」
「はっ、そうで厶ります。魂魄《こんぱく》、――まさしく魂魄に相違厶りませぬ。親の魂魄の手引きうけて、仇討《あだうち》に来は来ましたが、赤堀先生は名うての腕達者、到底尋常の手段では討てまいと、習い覚えた按摩の術で先ず右腕の急所を揉み殺し、然《しか》るのちに討ち果そうと致しましたところを早くも看破されて、むごたらしい返り討ちになったのじゃそうに厶ります」
「いかさまな、味のある話じゃ。それから赤堀はどうなったぞ」
「奇怪で厶ります。それから先、水甕を覗くたびごとに、いつもいつも父親の死顔がぽっかりと泛びますゆえ、とうとうそれがもとで狂い死したそう
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