似をするから、みんなからも爪《つま》はじきされるんじゃ。女将も女将じゃ。江戸の名残りだの、めずらし屋だのと、利《き》いた風《ふう》な看板をあげておいて、あのざまはなんじゃ! こういう風なことをするから、成り上り者が、ますますのさばるんじゃ」
「そういうことになろうかも知れんの」
「知れんと思ったら、貴様はじめ、こんな真似をせねばよいのじゃ! するから、尾っぽをふるから、心のよごれぬ女までが、お雪のまうなものまでが――」
たまりかねたとみえて、新兵衛は、膝の横に寝かしてあった大刀を、じりじりと引きよせた。
しかし、なん度もなん度も膝を浮かして、襖に手をかけようとしたが、その紙ひと重《え》の襖が、今はもう遠く及びがたい城壁のように、ぴったりと間を仕切って、たやすく開けることが出来なかった。
「馬鹿めがっ。意気地《いくじ》なしめがっ。こういうことになるから、こういう目に会うから、今の世の中は気に入らんのじゃ! ――女将! 女将!」
悶《もだ》えるように、どったりと坐ると、新兵衛は甲高《かんだか》く呼んだ。
「酒を運べっ。女将! おれとてお客様じゃ! 貴様が運べぬなら、おやじを呼べっ、お
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