うにして育てた小婢《こども》でございますから、よろしいように。――もしえ、みんなもなにをしておるんだえ。あちらの御浪人さんのお酒なんぞあとでいいよ。早くこちらへお運び申しておくれ」
 ピシャリと、新兵衛の座敷の襖が鳴った。
 白い歯を剥いて、有朋がにっと笑うと、荒々しく閉ったその襖を目でしゃくり乍ら、平七に言った。
「おまえ、あれと朋輩《ほうばい》じゃろう。用はない。あれの方へ行け」
「……?」
「ここにはもういなくてもよいから、あちらへ退《さが》れというのじゃ。早く退れっ」
「そうでございますか。あちらへ行くんですか……。やあ君。ゆうべは失敬。さがれと言ったからやって来たよ」
 のっそりとした顔をして、平七は、追われるままに這入《はい》っていった。
「馬鹿めがっ」
 待ちうけるようにして、新兵衛が睨《にら》みつけた。
「なんだとて、あんなものを案内して来たんじゃ!」
「おれが案内して来たわけじゃない。ふらふらとこっちへやって来たら、和服の陸軍中将も興《きょう》に乗って、ふらふらとついて来たから、一緒にここへ這入ったまでさ」
「なにが陸軍中将じゃ。貴様、そういうような諛《へつら》った真
前へ 次へ
全33ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング