慌てて、閉め切ってあった向う端の部屋の襖をガラリとあけた。
同時に、
「おお」
「よう」
向うとこちらから、おどろいた声と顔とが打《ぶ》つかった。
意外にもその襖の向うには、ゆうべのあの新兵衛が、ゆうべのあの小娘のお雪を抱きかかえるようにして坐っていたのである。
しかし、その髪にはもう花簪はみえなかった。覚えたばかりのような媚《こび》のある目を向けて、恥かしそうに平七の顔を見あげると、また恥かしそうにお雪は顔を伏せた。
早くも有朋の目が、その姿にとまった。
お女将《かみ》の推察もまた早かった。
「困るね。おまえ。こんなお客さん毎日のことだから、あとでもいいんだよ。御前さま、おまえにお目が止まったようだから、早くあちらへご挨拶にお行きよ! 粗相《そそう》があっちゃいけないよ」
もぎとるようにしてお雪をつれて行くと、無理矢理《むりやり》有朋のそばへ坐らせて、お女将は、ここを先途《せんど》と愛嬌《あいきょう》をふりまいた。
「なにしろこの通りの赤児《ねんねえ》でございますから、いいえ、ご前《ぜん》、赤児《ねんねえ》ではございますけれど、大丈夫ですよ。三つの年からわたくしが娘のよ
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