みち》がつづいて、あたりいちめんに生《お》い繁《しげ》っているすすきの穂の先を、あるかないかの風が、しずかな波をつくり乍ら渡っていった。
 きのうに変って、カラリと晴れたせいなのである。そよぎ渡るその風の間に、このあたり向島《むこうじま》の秋らしい秋の静寂《せいじゃく》が初めて宿って、落ちかかった夕陽のわびしい影が、かすかな縞《しま》をつくり乍ら、すすきの波の上を流れていった。
「平七」
「へい」
「…………」
「…………」
「秋だな」
「秋でござりますな」
 なんというわけもなかった。有朋も有朋ということを忘れて、平七も平七ということを忘れて、いつともなしにふたりは肩を並べ乍ら、すすきの径の中に出ていたのである。――足が動いているのではなかった。こころが歩いているというのが本当だった。
 どこへ、というわけもなく、ふたりは肩を並べ乍ら、土手の方へあがっていった。
「おまえはどちらへ行くつもりじゃ」
「どちらでもいいですが……」
「わしもどちらでもいいが……」
 なんということもなかった。片身《かたみ》違《ちが》いに足を動かしているうちに、いつのまにか平七はふらふらと、ゆうべのあの石原
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