交《めま》ぜをし乍ら、さっさと中へ這入《はい》っていった。
狭《せま》い前庭《まえにわ》に敷いた石に、しっとりと打ち水がしてあって、濡《ぬ》れた石のいろが、かえってわびしかった。
「まあ、ようこそ……」
たびたび来ているとみえて、顔なじみらしい女中がふたり、あたふたと顔を並べ乍ら下へもおかずに新兵衛を請《しょう》じあげた。
しかし、新兵衛は、ほかに誰か目あてがあるらしく、あちらこちらと部屋をのぞきのぞき、川に向いた三間《みま》つづきの二階へ、どんどんとあがっていった。
その部屋のてすりにもたれて、ひらひらと髪の花簪《はなかんざし》を風に鳴らし乍ら、ぼんやりと川をみていた小柄《こがら》な女が、おどろいたようにふりかえった。
「あら……」
「おお、いたのう」
探していたのはそれだったのである。まだ十七八らしく、すべすべした肌のいろが、川魚のような光沢《つや》を放って、胸から腰のあたりのふくらみも、髪の花簪のように初々《ういうい》しい小娘だった。
「いかんぞ。そんなところで浮気をしておっては。――まあここへ坐れ」
たびたびどころか、毎日来ているとみえて、新兵衛は、無遠慮に女の手を
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