きのお裁きで、執拗《しつよう》な邪悪の手から救われたことのよろこびが、頑丈なその胸をくい破ったのです。
「うれしいか、十五郎」
 将軍家をお見送りおわると、主水之介の目はこのもしげに十五郎をうながしました。
「そのよろこび、早う妹へ伝えてつかわせ。われらもともに引上げようぞ。――京弥。お胸前!」
「はッ」
 陸尺共がおきすてて逃げたお胸前を捧げて京弥が先頭に――。
 ぴたり、よりそって菊路。それから退屈男、十五郎――。
 月が出た。人の心を明るくさわやかにそそるように、屋並《やなみ》の向うからさしのぼった月の光の中を明るい影が動いて行きました。



底本:「旗本退屈男」春陽文庫、春陽堂書店
   1982(昭和57)年7月20日新装第1刷発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:tatsuki
校正:大野晋
2001年12月18日公開
2002年1月24日修正
青空文庫作成ファイル:
このフ
前へ 次へ
全89ページ中88ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング