! ほら! ほら!」
 六本の槍襖がじりじりと背後の指揮者とみえる影のところまで退って、一緒になった九つの影がじりりッとお濠の方へ――。
「ほら! ほら! あとすこしでお濠でござるぞ。お濠の水雑炊《みずぞうすい》おたしなみなさるも御一興。鮒《ふな》、鯉、どしょう、お好みならばいもり、すっぽんもおりましょうぞ。――ほらッ。ほらッ」
 あぶない。お濠の角石まであとがつまって、爪先立ってよろめく一番うしろから、今にも人|雪崩《なだ》れ打ってお濠へ落ちこむ、――と見えた途端でした。――不意に退屈男の背後から、どすぐろい叫びがあがりました。
「おひるみめさるな! そちらの方々! 押し返しめされい。加勢じゃ! 加勢じゃ! われらがお加勢つかまつるぞ! 挟み打ちにいたそう! 押し返しめされいッ」

       一六

 ハッとふりかえると、いつの間に迫ったか、いる! いる! かれこれ二十人ばかり、あまり風体もよろしくないごろつき付らしいのが、これが頭と見える白覆面を先頭に、ズラズラと白刄をならべているのです。
「やっておしまいなされ! この通り大勢、加勢がいるのじゃ! どなたたちか知らぬが、われ等
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