ではと、恐れながら主水之介、道々心を痛めて罷り越しましてござりまするが、いつにも変らぬそのお爽やかさ、さすがは権現様《ごんげんさま》お血筋、二なき御明君と主水之介よろこばしき儀にござります」
「黙れッ! たわけッ。佞人ばらとは何じゃ! 誰のことじゃ!」
「すなわち腰本治右衛門、まったお紋の方様、倶《とも》に天を戴きかねる佞人にござります」
「黙れッ。黙れッ。紋が佞人とは何じゃ! お紋は予が寵愛の女、またなく可愛い奴じゃ。たわけ申すと許さぬぞッ」
「それこそ佞人の証拠、御明君のお目を紊《みだ》し奉つるが何より佞人の証拠にござります。上は天晴れ御明君、われら直参旗本が自慢の御明君――」
「黙れッ、黙れッ、黙らぬかッ」
「いいや、上は御明君、天下に誇るべき御明君、主水之介もまたつねづねそれを思い、これを思い――」
「黙れと申すに黙らぬかッ」
「いいや、上は天晴れ御明君、天下二なき御明君を戴き奉つることほど、よろこばしき儀はござりませぬ。女魔と申すものはとかく美しきもの、御寵愛はさることながら、それゆえにお上ほどの御明君が、正邪のお目違い遊ばされたとあっては由々《ゆゆ》しき大事、只々御明察のほ
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