挺ともにためぬり、定紋《じょうもん》入りの屋敷駕籠なのでした。
「まだ計るつもりか!」
「計るとは?」
「御前もこの手でたばかったであろう! われら二人も計るつもりか!」
「滅相もござりませぬ。あの通り陸尺《ろくしゃく》どもは只の下郎、御案内いたすものはこの手前ひとり、計るなぞとそのような悪企み毛頭ござりませぬ。早乙女の御前は少々他言を憚《はばか》るところに至って御満悦の体にてお越しにござりますゆえ、そこまで御案内を申上げるのでございます。どうぞお疑いなくお乗り下されませ」
「よしッ。乗ってやろう。菊どの、御油断あってはなりませぬぞ」
「あなたさまも!」
乗るのを待って駕籠は、小侍を道案内に立てながら、しずしずと歩き出しました。
一〇
土手沿いに午込御門へ出て、そこから濠ばた沿いに右へ道をとり、水戸邸の手前からさらに左へ折れて、どうやら駕籠は伝通院を目ざしているらしいのです。
目ざしているところも不思議だが、今か今かと油断なく駕籠の中から左右へ目を光らしていたのに、出る気色《けしき》もない。
やがて乗りつけたところは、やはり伝通院でした。開基《かいき》は了誉上
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