と片附けまでが済んだようにも思えるのです。
 京弥の目はいつのまにかほのぼのとして美しい殺気に彩《いろ》どられました。
「頼もう! 頼もう!」
「………」
「急用で参ったものじゃ。取次の者はおいで召さらぬか。頼もう! 頼もう!」
 二度目の声でようやくに小侍《こざむらい》がそこへ手を突いたのを見迎えると、京弥は殺気におどる声であびせました。
「侮《あなど》ったことを申すと、手は見せませぬぞ! 早乙女の屋敷から参った者じゃ。御前はいずれでござる!」
「ああ、なるほど。お暑いところをようこそ。少々お待ち下されませ」
 奥へ消えていったかと思うまもなく、再び姿をみせて手をつくと、言葉までが実に気味のわるいほどいんぎん鄭重《ていちょう》なのです。
「主人は火急の御用向にて只今御登城中にござりまするが、お出かけぎわにお言いのこしなされたとのことでござりました。早乙女家の方々が御前をお迎いに参られるやも知れぬ。参られたならばねんごろに御案内申せとの御伝言でござりますゆえ、手前これより御案内申しまするでござります。御遠慮なくどうぞあれへ――」
 指さしたのは駕籠である。
 それも只の乗物ではない。二
前へ 次へ
全89ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング