り松平の御前《ごぜん》からきいた言葉をふと思い出した。屋敷へかえってあの菓子頂戴しながら、菊めにお茶なぞひとねじりねじ切らすかのう。ウフフ。如何《どう》ぞ!」
「けっこうでござります」
「なぞと申して、菊めの名前が出ると、俄かにそわそわと足が早うなるのう。――一句浮んだ。茶の宵やほのかにゆらぐ恋心、京弥これを詠《よ》む、とはどんなものぞよ」
パッと紅葉がその頬に散ったに違いない。声もなくさしうつむいて、駕籠のあとから急ぐ京弥の背に、冬ざれの大江戸の街の灯がゆらゆらゆらめきました。
底本:「旗本退屈男」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年7月20日新装第1刷発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:tatsuki
校正:大野晋
2001年12月18日公開
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp
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