「心得ました。そうと決まりますれば、京弥、北口不浄門を見張りましょうゆえ、七五郎どの新吉どの両人は東口を、東五郎どの長次どの御両人は西口を御見張り召されよ。ではのちほど――」
「まて! まてッ」
「はッ」
「いずれは警固もきびしく運び出すであろうゆえ、それと分らば合図致せよ」
「心得ました!」
ひたひたと三手に分れていずれもまっしぐら。――ざわ、ざわ、ざわと、庭の繁みの葉末を鳴らして、不気味な夜風です。
主水之介は、ぬッと築地《ついぢ》わきに佇んだままで、薄闇の向うの門先を見守りました。
しかし出ない。
人影はゆめおろか、犬一匹屋敷うちからは姿を見せないのです。
合図の声もない。
北口不浄門からも、東口御小屋門からも、西口脇門からも、何の声すらないのです。
「はてのう? バラしたかな」
いぶかっているとき――。
「殿様え! 殿様々々。出ましたぞう!」
突如、闇を裂《さ》いて伝わって来たのは、まさしく東口御小屋門のかなたからです。
同時に一散走りでした。
駈けつけて見すかすと、なるほど八九名の影がある。しかも大きな長持を一|挺《ちょう》担《にな》わせて、その黒い影の
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