!」
「ど、どう仕りまして。伜とは似てもつかぬ全然の人違いなのでござります」
「なにッ。人違いとのう! ほほう、そうか。ちとこれは面白うなって参ったかな。なれども死顔は変るものじゃという話であるぞ」
「よしや変りましても、親の目は誰より確か。年恰好、背恰好はどうやら似ておりまするが、伜はもッと優型《やさがた》でござりました。水死人はむくみが参るものにしても、あのように肥っておりませなんだ筈、親の目に間違いはござりませぬ」
「でも、書置にまさしくその方伜と書いてあったそうじゃが、それは何と致した」
「なにより不審はそのこと。骸《むくろ》は誰が何と申しましょうとも、見ず知らずの他人でござりますのに、どうしたことやら、書置の文字は紛《まぎ》れもなく伜の手蹟《て》でござりますゆえ、手前共もひと方ならず不審に思うているのでござります」
「女の方はどうぞ? 誰袖とやらの骸は、吉原へ送ったか。それともまだこちらにあるか」
「こちらにござります。何が何やらさッぱり合点参りませぬゆえ、庭先に寝かしたままでござりまするが、それもやはり――」
「人違いじゃと申すか!」
「はッ。なにはともかくと存じまして、さ
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