の相がある。いや、揃うた揃うた。注文通りによくも揃うたわい。早足に早耳に世間通に、世馴れ者のバクチ打ちとはひと狂言打てそうじゃ。何を頼むにしても先立つものはこれであろうゆえ、五両ずつ遣わそうぞ。ほら、この通り五枚ずつじゃ、遠慮のう懐中せい。――いや、苦しゅうない。びっくりせいでもいい。五両の小判で命売れと言うのではない。折入って頼みたいことがあるゆえ遣わしたのじゃ。もじもじせずと早う懐中致せ! ――そうそう。いずれも蔵《しま》うたな。ではそれなる頼み言うて聞かすゆえ、よう聞けよ。と申すはほかでもないが、吉原三ツ扇屋抱えの遊女誰袖と、京橋花園小路糸屋六兵衛の伜源七と申す両名が、同じ日に行方《ゆきがた》知れずとなって、奇態なことに似せ者の死体が大川から揚がったのじゃ。頼みと申すはこのこと、本人同士が何ぞ細工をしたか、それとも恋讐《こいがたき》共がよからぬ企らみ致しおったか、何れに致せすておけぬゆえ、その方共に今からすぐ不審の正体探り出しにいって貰いたいのじゃ。先ず第一は吉原へ参って、誰袖の行状探り出すこと、第二にはうつつぬかして通いつめた色|讐《がたき》共じゃが、対手は三人ある。本石町油屋藤右衛門伜又助なる者がそのひとりということゆえ、こやつの行状探り出すには、油いじりが商売の床屋新吉がよかろうぞ。二人目は浅草大音寺前人入れ稼業新九郎の身内十兵衛と申す奴ゆえ、男達《おとこだて》にバクチ打ちは縁ある仲じゃ。人好し長次がこの方を探ってな。あとのひとりはちと大物ゆえ、残った早足東五郎と早耳七五郎の両名揃うて参るがよい。探り先は二万四千石城持ち、赤坂溜池際に屋敷を頂戴致しおる遠藤主計頭じゃが、大工と鳶なら近よる手段《てだて》もあろうし、よしまた近寄ることが出来ずとも、お抱えお出入りの鳶、大工があろうゆえ、少しく智慧を働かしなば、屋敷の秘密なにくれとのう雑作なく嗅ぎ出せるというものじゃ。床新と人好し長次両名はまたその足で三ツ扇屋へ参り、なにかと詳しゅう探ってな、別して新吉は世事に通じておるが自慢とのことゆえ、人の話、世間の噂、ぬからずに、――のう分ったか! 事は急じゃ。早う行けい!」
「なるほど! 御名物の御殿様ゆえ、只の御酔狂ではあるまいと思いましたが、いや、変ったお頼みでごぜえます。そういうことは大の好き、折角お目鑑《めがね》に叶ったものをヘマしちゃならねえ。じゃ、兄弟《きょ
前へ
次へ
全23ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング