わしてみたのじゃ。あの四人には見どころがある。余の亡者には用がないゆえに早々に追ッ払って、あの者共早う召し連れい」
「いかさま、左様でござりましたか。そうのうてはなりませぬ。御深慮さすがにござります」
 まことにさすがは退屈男、趣向も直参らしく豪奢《ごうしゃ》きわまりない趣向であるが、人の選み方もまた巧みに人情の急所を衝いて、目のつけどころが違うのです。
 やがてのことに座敷へ導かれて来たのは、いずれも一風ありげなその四人でした。
「来たか。来たか。遠慮は要らぬぞ。勝手に膝をくずしてずっと並べ。その方共とてあの建札眺めて参ったからには、小判がほしゅうての事であろうが、なにゆえ拾わざった」
「………」
「怕《こわ》いことはない。念のためにきくのじゃ。遠慮のう言うてみい。さだめし咽喉《のど》から手が出おったろうに、なにゆえ拾わざったぞ」
「あさましいあの有様を眺めましたら、急に情なくなりましたんで、ぼんやりと見ていたんでごぜえます」
「やはりそうであったか。なかなかにうれしい気性の奴等じゃ。そこを見込んでちと頼みたいことがあるゆえ、先ず名をきいておこうぞ。いずれあの建札知って参ったからには、それぞれ得手《えて》がある筈、右の奴は何と申す名前の何が得手じゃ」
「大工の東五郎と申しやす。少しばかり足の早いが自慢でごぜえます」
「ほほうのう。大工ならば足なぞ早うのうても役に立つ筈なのに、人一倍早いと申すか。いや、面白い面白い。次は何じゃ」
「床屋が渡世《とせい》の新吉と申す者でござります。髪床は人の寄り場所、したがって世間のことを少々――」
「なるほど。世間通じゃと申すか。いや、面白いぞ面白いぞ。段々と役者が揃うて参ったわい。三人目は何じゃ」
「鳶《とび》の七五郎と申します。ジャンと来りゃ火の子の中へ飛び出すが商売《しょうべえ》、そのせいか人より少し耳が早うごぜえます」
「ウフフ。面白い面白い。ずんと面白いぞ。お次はどうじゃ」
「あッしばかりはまことに早やどうも――」
「バクチの方か!」
「へえ。相済みませぬ。御名物のお殿様でごぜえますから、直《ちょく》に申しまするが、名前は人好《ひとよ》し長次、まとまった金がころがりこむと、じきにうれしくなって人にバラ撒いちまいますんで、この通り年がら年中文なしのヤクザ野郎でごぜえます」
「わはは。道理でのう。目が細うて、鼻が丸うて、極楽行
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