かみ》様でごぜえます」
「なに! 竜造寺殿が糸を引いておるとのう。これはまた意外な人の名が出たものじゃな。どうしてまたそれが相分った。何ぞたしかな証拠があるか」
「証拠はねえんです。あったらまた御上でも棄てちゃおきますまいが、乾児《こぶん》の若けえ者達の話によると、竜造寺の殿様が二三度あの道場へこっそり御這入りなすったところをたしかに見かけた、と言うんでごぜえます。釜淵番五郎が大阪者だというのも気になるが、竜造寺のお殿様もまたその大阪とは因縁の深けえお方でごぜえますから、それこれを思い合わせて考えまするに、どうも何か黒幕で糸を操っていらッしゃるんじゃねえかと思うんでごぜえます。それゆえ、万ガ一の場合のことをお考え遊ばして、御殿様の御仲間のお旗本衆でも二三人御連れなすったらいかがでごぜえます」
「いかさま喃。竜造寺殿が蔭におるとはちと大物じゃな」
主水之介の面は、キリキリと俄かに引き締まりました。無理もない。話のその竜造寺長門守こそは、実に、人も知る戦国の頃のあの名将竜造寺家の流れを汲んだ、当時問題の人だったからです。城持ちの諸侯ではなかったが、名将の血を享《う》けた後裔《こうえい》と
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