べての手筈が運ばれたらしく、程たたぬまに主水之介達三人が窺いよっているそこの広縁伝いに、こちらへさやさやとつつましやかに衣《きぬ》ずれの音を立てながら、大役に脅《おび》えおののいているのに違いない菊路が導かれて来た気配《けはい》でした。と同時です。もうその場から汚情《おじょう》に血が燃え出したものか、十郎次の濁《にご》った声が伝わりました。
「ほほう、いかさまあでやかな小娘よ喃。道に踏み迷うたとかいう話じゃが、どこへの旅の途中じゃ」
「………」
「怖《こわ》うはない、いち夜はおろか、ふた夜三夜でも、そなたが気ままな程に宿をとらせて進ぜるぞ。どこへ参る途中じゃ」
「あの、日光へ行く途中でござります」
「ほほう、左様か。このあたりは道に迷いやすいところじゃ。それにしてもひとり旅は不審、連れの者はいかが致した」
「あの、表に、いいえ、表街道までじいやと一緒に参りましたなれど、ついどこぞへ見失うたのでござります」
「じいやと申すと、そなた武家育ちか」
「あい、金沢の――」
「なに、加賀百万石の御家中とな。どことのうしとやかなあたり、育ちのよさそうな上品さ、さだめて父御《ててご》は大禄の御仁であ
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