よ。参ろうぞい」
 飛んだ落し胤の主水之介が、また大層もなく心得ているのです。
「父上。思わぬところで旧悪がバレましたな。ウフフ。では、どうぞお先に、うしろから送り狼が五六匹狙うているようでござりますゆえ、ちょッと追ッ払ってから参ります」
 何者か編笠の中の正体を見届けようとつけ狙って来た小者の方へ、ずいと静かにふり向くと、パチンと高く鍔《つば》鳴りをさせました。音が違うのです。腕の出来る者が鳴らすと、同じ鍔鳴りは鍔鳴りであっても、ピーンと冴えて、音が違うのです。
 早くも強敵と知ったか、たじたじとなってうしろに引いたのを、
「わッははは。軍師が違うわ。うしろ楯におつき遊ばす軍師がお違い申すわ。夜食に芋粥《いもがゆ》でも鱈腹《たらふく》すすって、せいぜい寝言でも吐《つ》かッしゃい」
 すういと消えていった主水之介のその影のあとから、くやしげに屋敷の門が音も荒々しく締まりました。

       五

 そうしていち夜があけました。――深い霜の朝です。
 つづいてまたひと夜があけました。――やはりいちめんに深い霜です。
 三日目の朝がさらに訪れました。――満目荒涼いちめんに白々として、や
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