た。その上に足ごしらえも穏かでない、普通に鳥刺しの服装と言えば、ヒョットコ手拭に網袋、それから代りのモチを仕込んだ竹筒を腰にさげて、手甲に脚絆、膝は十人中十人までが丸出しのままであるのに、不審なその鳥刺しは、丸輪の菅笠を眼深に冠って、肩には投げ荷を背負い、あまつさえ脚絆のほかに股引すらも穿《は》きながら、一見しただけで遠い旅路をでもして来たらしいいで立ちでした。しかも、肝腎の刺した雀を入れる網袋がないのです。――これは何びとが何と抗議を申込もうと、不審と言うのほかはない。他の七ツ道具の容子が変っているのは、まだ大目に見逃すことが出来ないものでもないが、小鳥を刺してそれをその日その日の生計《たつき》の料《しろ》にしている鳥刺しが、獲物を入れるべき袋を腰にしていないということは、大いに不埓千万《ふらちせんばん》なのです。
「はて喃《のう》。雲茫々、山茫々、鳥刺し怪しじゃ。ちとこれは退屈払いが出来ますかな」
いぶかりながら見眺めているとき、実に不意でした。
「貴様、まだまごまごしておるかッ。神域を穢《けが》す不所存者めがッ。行けッ、行けッ。行けと申すに早く行かぬかッ」
けたたましく怒号し
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